丸山健二塾

丸山健二塾長からの言葉

■ 出版の原点に回帰せよ。

さて、文学における現在の状況ですが、ひと言で片づけるならば最悪であり、さらに始末わるいことには、関係者にその認識が欠落している点です。多少の自覚症状はあるようなのですが、しかし、頭のどこかにはまだ、そのうちどうにかなる、自分が定年までは持つだろう、などと、その程度の能天気な希望的観測がこびりついていて、あとは徒労の会議を重ねるばかりで、依然として一発逆転の大ホームランをかっ飛ばす夢にしがみついているようです。とはいえ、ここへきてさすがに危機感を払いのけられなくなったようで、ともかく売り上げを少しでも上げなければという焦りを強め、これまで作家をダシにして会社の金で遊ぶことしか考えてこなかった、つまり、それが編集者の主な仕事であると思いこんできたせいで、本来の仕事をちゃんとやれなくなった社員をいくら締めつけてみたところで、今更どうにもなりません。

要するに、出版でぼろ儲けはできない時代に入ったのです。これからは、出版の原点へと回帰し、一冊を不特定多数の読者に売りつけるのではなく、そうした本ならばぜひ購入したいという、特定少数の読者を満足させる本をじっくりとゆっくりと出してゆくべきなのです。それには、何よりもまず、出版社の人間自身が、本の真の価値をよく承知していて、それにふさわしい書き手をよく理解していることが肝心なのです。

もし、それでもいい本を出すことが夢で出版社に入社し、現実の馬鹿馬鹿しさにも打ちのめされず、相変わらずの理想と情熱を抱きつづけている者がいたら、一日も早く自分と同じ考えを持つ仲間数人と、いや、独りでもいいから、小さな出版社を立ち上げるべきでしょう。もちろん、簡単なことではありません。夢は夢として、現実は現実として、きっちり区別し、経営的破綻という恐怖に怯えながらの昼と夜をくぐり抜けてゆかなければならないでしょう。やみくもに突っ走るのではなく、この人の、この作品を世に送り出してみたいと強く願うほどの出会いがあってから初めて進める計画なのですが、それなくしては挫折が明々白々です。出版社を立ち上げてから出したい作品を探すような無茶な真似は絶対禁物です。それにまた、世に送り出したいと強く願っている作品がひとつやふたつあったとしても、そのあとにつづく作品と出会えるかどうかはわかりません。おそらくはないでしょう。事ほど左様に、この国の文化レベルは低く、内容が貧しいのです。

■ 「まだ見ぬ書き手」は存在した。

そして今、言葉を用いた芸術作品としての、真の文学を本気でめざそうとする者が皆無というわけではないことが、「丸山塾」を開き、「丸山健二文学賞」を創設することによって、はっきりと証明されたのです。つまり、失望や絶望という答えを出すには早計に過ぎました。文学として堂々と罷り通っている、稚拙な文章による、幼稚な感動物語を、売れる可能性が高いからという理由のみで書きつづけ、出しつづけ、持ち上げつづけてきた、質の低い書き手と読み手と編み手の時代は、もっと安直な映像メディアの氾濫に蹂躙されています。自己逃避と現実逃避が狙いのナルシシストたちは、小説からそっちの側へと移行しつつあります。残った読み手は、映像という具象性に妨げられずに、感情移入がしやすいという、単にそれだけのことで、見え見えの嘘でしかない夢と憧れで塗り固めた恋愛小説なるものと、日常の愚痴に終始した、寝言程度の中身しかない代物に、必死で逃げこもうとしている、文学青年、文学少女気どりの、偽りの陶酔を貪るばかりの、純粋のふりをしながら実際には薄汚い生き方しかできない、そしてそこから滲み出た汚物を自慢したがる、異様な活字中毒者たちのみです。

そんなものが文学として持て囃されてきたこと自体が異常でした。要するに、文学は依然として本格的な偉大な文学の道を辿っていないことになります。ということは、手つかずの文学の鉱脈が無限に存在するわけですから、なんとしてもこの宝の山を掘らないわけにはゆきません。

最後に、ひと言。「まだ見ぬ書き手」は存在しました。それも、こんな短期間で複数見つかりました。ひっきょう、棄てたものではないという結論が出たのです。

丸山健二
(写真撮影/坂田栄一郎)

丸山健二

丸山健二塾活動報告②

「才能があるとか、ないとか、自分で勝手に決めないでもらいたい。あなたはまだ何もやっていないのだから」丸山健二

■ 信州の地で第1期生の修了証を授与

10月22日・23日、長野県大町市の某会場にて第1期生の最後の全体ミーティングと個人面談を開催しました。
最寄り駅の信濃大町駅を降りると、初雪にはまだ早いのですが、空気はすでに冬の気配を漂わせ、壮大な北アルプスの山頂付近にはうっすらと白い筋が見えました。当事務局がある新宿では感じることは絶対にない感覚にしばし感に入り、会場へと向かいました。
全体ミーティングは午前11時から丸山塾長の講演を行い、塾生とともに仕出し弁当を食べた後、個人面談を行いました。最後、第1期生のみなさんへ修了証をお送りして1年間の講義は終わりました。

■ あなたに才能がないと誰が言えますか?

丸山塾長から「塾をやろう」と言われ、どたばたと準備してスタートしてから1年、第1期生のみなさんが塾長から与えられた個別の課題に取り組む熱心さに頭が下がり、回を追うごとに上達していく文章力に心が沸き立つような喜びを感じる日々でした。
塾生の中には、初めて物語を書くという女性もいらっしゃいました。一般的なカルチャースクールの文章講座とは考え方や教える方法もまったく異なる当塾に戸惑ってはいらっしゃいましたが、丸山塾長の言葉に熱心に耳を傾け、毎日の努力は確実に力となり、最後の課題文は最初のそれとは格段の差が見て取れるほどに上達されました。
第1期生の中には受講を継続される方も多くいらっしゃいます。すでに充分腕を上げていらっしゃるのですが、さらに丸山塾長が作家として50年を掛けて独自に切り開いてきた文学の作法を学び、より高みに向かって精進したいという思いが継続される理由です。
教える者の思いと、教わる者の熱意が掛け合わされて成熟したとき、当塾が目指す新しい文学が生まれるのでしょう。その日がそう遠い日ではないと思わせてくれたのが、第1期生のみなさんでした。
丸山健二塾では、文学を芸術へと昇華するために、多くのみなさんのご参加をお待ちしています。最後に丸山塾長の言葉を記します。
「才能があるとか、ないとか、自分で勝手に決めないでもらいたい。あなたはまだ何もやっていないのだから」

個別面談の模様。現状の欠点を指摘し、それを直すための訓練方法を具体的に伝えます。

第1期生へ修了証を贈りました。

■ 第1期丸山健二塾活動報告

丸山健二塾の活動について簡単に報告します。
第1期生は、2015年11月からスタート。東京都内で開催した第1回全体ミーティングでは、丸山塾長からの講話と個人面談を行いました。
第1期の塾生たちは、同人誌に入っていた執筆経験豊富な方から、これまで仕事一筋でまったくの執筆未経験者までいらっしゃり、塾長の個人面談では塾生の日常生活や読書歴、執筆経験などをもとに、一人ひとり毎月の課題作文について具体的な書き方や方向性を指導、日常から文章を鍛錬する方法等をそれぞれにお話していきました。
塾生たちからは「そんな方法は聞いたことがない」「これまでの考え方が変わった」との感想をいただきました。
本塾では、既存のライター講座や小説家養成講座でお話されるようなものではありません。本塾は、作家・丸山健二がこれまで書き続けてきた経験から生まれたノウハウを、塾生のレベルに合わせて教授していき、新しい文学を創出する作家を育てるのが目的ですから、ご存知ないのは当たり前のことです。
その結果、塾生たちは丸山塾長からの指導を理解されたうえで課題作文を提出され、少しずつ、中には格段の進歩を遂げている方もいらっしゃるようになりました。
作家を目指すみなさん、ぜひ丸山健二塾を体験してみてください。これまで見えなかった新しい道がきっと見つかると思います。ご応募お待ちしています。

■ 丸山健二塾長からの言葉

第1期生の塾生たちと面談し、短い文章を読まさせてもらった際には、既成文学がいかにかれらを毒しているかを痛感するあまりに、ほとんど絶望的な気分に陥ったのですが、しかし、最初のアドバイスで早くもかれらの顔が輝くのを目の当たりにしたとき、もしかすると、日本語の魅力を存分に引き出す具体的な方法を知らないのではないか、ただそれだけのことではないかという直感が働きました。そして半年後、半数以上の方が、なんと予想をはるかに上回る速度で上達していることに、驚きを禁じ得ません。

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